右からNANO HD代表取締役会長兼社長CEO/NBI取締役の松村淳氏、NANO HD取締役CIO/NBI代表取締役の飯野智氏、ナティアスの代表取締役会長兼CEOに就任したNANO HD取締役CGO/NBI取締役の富所伸広氏、NANO HD取締役CTO/NANO MRNA代表取締役社長の秋永士朗氏(撮影=日経バイオテク、2026年8月10日撮影)
右からNANO HD代表取締役会長兼社長CEO/NBI取締役の松村淳氏、NANO HD取締役CIO/NBI代表取締役の飯野智氏、ナティアスの代表取締役会長兼CEOに就任したNANO HD取締役CGO/NBI取締役の富所伸広氏、NANO HD取締役CTO/NANO MRNA代表取締役社長の秋永士朗氏(撮影=日経バイオテク、2026年8月10日撮影)

 NANOホールディングスは、2026年8月10日、投資子会社であるNano Bridge Investment(NBI)が、投資先であるナティアスの成長と企業価値向上を図るため、NANOグループの経営人材をナティアスに派遣し、経営体制を強化したと発表した。NBIは、同年7月31日、NBIが運用する「Bio Bridge I」(NBI-SBISGC 1号投資事業有限責任組合)においてナティアスに出資したことを発表している。

 ナティアスは、長鎖核酸合成技術を基盤とした核酸原薬等の製造・販売を手掛ける医薬品開発製造受託機関(CDMO)。2015年10月に四国核酸化学(高松市、代表取締役:片岡正典氏)として設立され、2019年末にナティアスへと社名を変更し、所在地を神戸市に移転していた。

 ナティアスの特徴は、「Blockmer」と呼ばれる、核酸をブロック単位で組み立てる独自の核酸合成技術を持つ点だ。従来の核酸合成は、塩基を1つずつ順に結合させていく固相合成法で、製造する核酸が長くなるほど、工程数が増加する。また、1塩基ずつ伸長させていく結果、目的とするN塩基の核酸と同時に、N-1体やN-2体の不純物が生じやすい。N-1体やN-2体の核酸を分離して除去するのは難しく、複雑な工程、原料のロス、製造コストや廃液の増加などにつながっていた。

 ナティアスのBlockmer技術は、2~12塩基程度の長さの核酸を1ブロックとし、このブロックを組み合わせて目的とする長さ/配列の核酸を化学合成で製造する、液相合成法だ。Blockmer技術を活用すれば、N-1体やN-2体の不純物は生成されないため、分離・精製コストを下げ、純度の高い核酸を合成できる。

 今回、NBIによるナティアスへの出資に伴い、NANOグループから経営人材を派遣した。ナティアスの代表取締役会長兼CEOとしてNANO HD取締役CGO(チーフ・グロース・オフィサー)/NBI取締役の富所伸広氏が就任。会長室長にNANO HD Executive Partnerの青木信行氏、監査役にNANO HD Senior Supervisor/NBI監査役の小坂真氏が就任した。富所氏と青木氏は日東電工出身で、青木氏は日東電工で核酸医薬CDMO事業を展開する日東電工Avecia社の経営などに関わった経歴を持つ。

 ナティアスは、ライフサイエンス市場向けに試薬や製造ソリューションを提供している米Entegris社と提携し、第1世代、第2世代のBlockmer技術をライセンスしている。今後はこのパートナーシップも強固にしていく計画だ。

 今回のナティアスへの出資及び経営体制刷新の狙いについて、NANO HD代表取締役会長兼社長CEO/NBI取締役の松村淳氏、NANO HD取締役CIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)/NBI代表取締役社長の飯野智氏、富所氏、NANO HD取締役CTO/NANO MRNA代表取締役社長の秋永士朗氏に話を聞いた。

2026年4月にNANO HDの子会社であるNANO MRNAが、新規のイオン化脂質に基づく脂質ナノ粒子(LNP)技術を持つLuna RD(浅井三千絵代表取締役)を買収し、子会社化した。今回、NBIがナティアスへ投資したことと併せて考えると、NANO HDとして核酸医薬領域を強化する方針に見える。

松村氏 核酸医薬について力を入れていることは事実だ。当社子会社にNANO MRNAがあり、以前からアンチセンス核酸やmRNA医薬の開発を手掛けていることから、核酸医薬に詳しい人材もそろっているし、当社の取締役でNANO MRNAの社長である秋永の核酸医薬に関する人的ネットーワークや知見も活用できる。

 ナティアスの核酸原体の製造能力をアピールしていく上で、NANO MRNAの知見やノウハウで裏付けていくことは非常に有効だと考えている。

秋永氏 核酸医薬のプラットフォームを持つNANO MRNAと、LNPを持つ子会社のLuna RDが営業活動や事業開発を進めていく上で、CDMOとして製造技術と能力を持つナティアスと情報交換するなど、事業会社同士で協業による相乗効果は期待できるのではないかと考えている。

飯野氏 NANO HDとしては、グループのアセットを活用して投資先をバリューアップするという形だ。

ナティアスへの投資を決めた要因は?

松村氏 ナティアスは過去には、経済産業省近畿産業局が選定する、新規性や独創性があって全国そして世界へと展開が期待されるスタートアップである「J-Startup KANSAI」に選ばれた実績がある。また、経産省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」(デュアルユース補助金)にも採択されている。日本医療研究開発機構(AMED)の「CiCLE(医療研究開発革新基盤創成事業」にも採択され、核酸原薬の1パッチ1kgスケールでの製造・精製が可能なことを実証するなど、Blockmer技術の有用性は、核酸を合成して供給する側にはよく知られていた。そのため、過去には東レエンジニアリングや三井化学が出資していたし、ナティアス創業初期の頃は日東電工が協業していた実績がある。

秋永氏 しかしユーザー側、例えば我々NANO MRNAのような核酸を医薬品にしようと取り組んでいる側には、あまり知られていない会社だった。ナティアスの代表取締役だった片岡氏は、国内外の学会やイベントなどに精力的に参加していたため、片岡氏を個人的に知っている研究者は直接依頼ができるが、知らない研究者はナティアスのことを知らないし、頼んだことがないというような極端な状態だった。

飯野氏 こうした状況だったため、経営は必ずしも良好とはいえない状態だった。様々なところから技術的にハードルの高い合成・製造の相談を持ちかけられ、それぞれに対応していた。そのことはナティアスの技術の高さを示すものであるが、経営に貢献できていなかったのが正直なところだ。2026年初に相談があり、様々な評価を行った上で投資を決めた。

富所氏 事業拡大を進めていくには、現在の国内外の核酸を使った治療開発のトレンドを踏まえた上で、選択と集中が必要となる。

 今後のナティアスの主要顧客候補は、ゲノム編集を手掛けるバイオテック/スタートアップと考えている。例えば、米Intellia Therapeutics社や、米Beam Therapeutics社、米Eli Lilly and Company社に買収された米Verve Therapeyutics社だ。いずれもゲノム編集治療の開発を手掛けている企業で、高純度の長鎖ガイドRNAの安定調達を必要としている。他にも、スイスNovartis社は2025年10月、抗体で核酸医薬をデリバリーする技術に基づいて抗体核酸複合体(Antibody Oligonucleotide Conjugates:AOC)の開発を手掛ける米Avidity Biosciences社を120億ドルで買収しており、Eli Lilly社も2026年5月、in vivo CAR-Tを開発する米Kelonia Therapeutics社を70億ドルで買収した。

 Verve社、Abidity社、Kelonia社の買収だけで計200億ドル(3兆円)が投じられており、核酸・ゲノム編集領域への資本流入が加速している。

 ゲノム編集のように1回で治療するようなものは、ガイドRNAの精度が重要となる。目的とする長さのガイドRNAだけを高純度に準備できなければ、ゲノム編集の精度も高まらない。我々は、ガイドRNAのCDMO世界市場は、2026年は2.5億ドルだが、2030年には6.3億ドル、2033年には10.9億ドルへと拡大すると予想しており、オリゴ核酸CDMO市場の中でも高成長が期待できるが供給が限られる領域と注目している。

飯野氏 今後NBIは、ナティアスの製造・品質管理体制の整備を進めるとともに、グローバル製薬企業やバイオスタートアップへの提案などマーケティング・顧客開拓を支援するとともに、営業・事業開発部門の機能強化、財務・経営管理体制の高度化もサポートしていく計画だ。